あなたの預金は無関係。「国債」が売買される本当の場所とは
国債取引は「閉ざされた世界」で行われる
「国の借金が増えれば、私たちの預金が危ない」。まことしやかに語られるこの不安は、ある重大な事実を知らないことからくる誤解に過ぎない。 多くの人々は、国債というものが、あたかもスーパーマーケットの商品のように、誰でも自由に現金で買えるものだと思い込んでいる。投資家や企業、あるいは個人が、自分の財布からお金を出して国債を買い支えている。そんなイメージを抱いているのではないだろうか。
しかし、現実は全く異なる。国債の売買が行われる場所、それは我々一般人が決して立ち入ることのできない「日銀ネット(日本銀行金融ネットワークシステム)」という、極めて閉鎖的な電子空間の中だけなのである。
通貨は「日銀当座預金」のみ
この日銀ネットというインターバンク市場において、取引に参加できるのは「政府」と「日本銀行」、そして選ばれた「市中銀行」などの金融機関だけである。 そして何より重要なのは、そこで使われる決済手段だ。我々が普段使っているお札や銀行預金ではない。「日銀当座預金」という、プロ中のプロしか扱えない特殊なデータのみが、決済手段として認められている。
つまり、銀行が国債を買うとき、我々から預かった「銀行預金」を使っているわけではない。銀行が日銀に持っている専用口座の数字、すなわち「日銀当座預金」を振り替えているに過ぎないのだ。ここを混同してはならない。
誤解が生む不要な不安
銀行預金と日銀当座預金。この二つは、名前こそ似ているが、全く別の財布に入っているカネである。 銀行は、国民の預金を又貸しして国債を買っているのではない。日銀ネットという閉ざされた回路の中で、政府と銀行の間で「日銀当座預金」という特殊なボールをパスし合っているだけなのだ。
この仕組みを理解している人間は、驚くほど少ない。だからこそ、「国民の資産で国の借金をファイナンスしている」といった、実態と乖離した物語が広まってしまう。
投資家や企業が間接的に関わることはあっても、国債発行と消化の核心的プロセスは、あくまで日銀ネット内で完結する。我々の生活資金とは切り離された、別のレイヤーでの出来事なのだ。この事実を知れば、漠然とした財政への不安も、少しは晴れるのではないだろうか。
