超音波療法(Ultrasound Therapy, UT) は、医療やリハビリの現場で広く用いられている物理療法の一つです。スポーツ障害や疼痛管理で知られる治療法ですが、近年では 創傷治癒(Wound Healing, WH) における補助療法としても注目されています。
1. 超音波療法の基本作用
UTは 音波エネルギー を組織に与え、温熱的・非温熱的な効果を生じます。
- 温熱効果(皮膚温上昇、最大40℃程度)
- 血流増加
- 細胞増殖の促進
- コラーゲン合成亢進
- 組織再生のサポート
- 非温熱効果
- アコースティックストリーミング:粒子の移動による代謝促進
- キャビテーション:微細な気泡発生 → 壊死組織を除去し健常組織を温存
これらにより、UTは 創縮小・炎症抑制・組織修復促進 を後押しします。
2. 超音波療法の種類
UTには大きく 低周波(LFU) と 高周波(HFU) の2種類があります。
- 低周波超音波(LFU, 30–40 kHz)
- 創傷治癒に有効性を示した報告があり、下肢潰瘍(Leg Ulcer, LU) で良好な成績。
- 創部周囲に直接照射(5〜10分)。
- トランスデューサーと皮膚の間にジェルを使用。
- 高周波超音波(HFU, 1–3 MHz)
- スポーツ医学やリハビリで筋障害治療に利用されてきた。
- 美容領域では HIFU(高密度焦点式超音波) がシワ・皮膚弛緩治療に活用。
- ただし創傷治癒に関するエビデンスは乏しい。
3. 臨床応用とエビデンス
米国FDAはUTを創傷治癒の補助療法として承認しています。特にLFUは下肢潰瘍の縮小効果が示され、慢性創傷管理の選択肢となり得ます。
一方で、創傷治癒や瘢痕予防に関する大規模臨床試験はまだ不足しており、多くの知見はLUを対象とした研究に限られています。
4. 禁忌と注意点
UTは安全性の高い治療ですが、以下のケースでは禁忌または注意が必要です。
- 金属インプラントや人工関節を埋め込んでいる部位
- 感染や血栓性静脈炎がある部位
- 重度の末梢神経障害(感覚障害)
適応を誤ると逆効果になる可能性があるため、専門家による判断が不可欠です。
5. プロトコルと臨床的視点
現状の推奨プロトコルは:
- LFU:創周囲に5〜10分、週数回繰り返し
- HFU:創傷への適応は未確立
臨床家の視点では、UTは以下のような患者に検討できます。
- 標準的治療(デブリードマン・ドレッシング・圧迫療法)で改善が乏しい慢性潰瘍
- 瘢痕予防が求められる術後患者(ただしエビデンスは限られる)
まとめ
超音波療法(UT)は:
- 血流改善・コラーゲン合成促進・抗炎症作用 によって創傷治癒をサポート
- LFU は下肢潰瘍で有効性が示され、FDAにより補助療法として承認
- HFU はスポーツ医学や美容で活用されるが、創傷治癒での臨床エビデンスは不足
- 禁忌(インプラント・感染・神経障害)を考慮する必要あり
- 標準治療との併用が前提であり、単独療法ではない
今後、大規模ランダム化比較試験によって 創傷治癒および瘢痕予防での位置づけ が明確になることが期待されます。