民意が動かした日本政治の新構造
有権者がつくった新しい政治地図
現在の日本政治には、意図せぬ形で極めて絶妙な構造が生まれている。そして驚くべきことに、その構造を形づくったのは、まぎれもなく我々有権者自身である。
「民意」という言葉には独特のイデオロギー臭が付きまとうためあまり使いたくないが、それでも昨年以降の選択を振り返れば、確かに国民の投票行動が政治の流れを動かしたといえる。
緊縮財政路線と移民受け入れ路線、これら長く続いた政策潮流がゆっくりと転換し始めている。歩みは遅いが、確かに方向は変わりつつある。転換が成功するかどうかは依然として未知数だが、それでも国の針路が動き始めた背景には、主権者の一票があった。
歴史上初めての「民意によるレジームチェンジ」へ
日本の大きな政治転換は、これまで常に外圧によってもたらされてきた。ペリーの来航、大東亜戦争の敗戦、そして構造改革。いずれもアメリカを背景とした外からの力だった。しかし今回の変化は、外圧ではなく国内の選択が引き金になっている。「民意によるレジームチェンジ」が生まれつつあるという点で、極めて特異な局面だといえる。
特に顕著なのが、内閣支持率と政党支持率の乖離である。高市内閣の支持率は八割を超える水準に達する一方、自民党の政党支持率は三割を切ったまま戻らない。岸田政権末期に離れた中核支持層は、その後も戻ってこなかった。
つまり、
「自民党には失望しているが、高市内閣には期待を寄せている」
という層が相当数存在するのである。
内閣支持と政党離れのねじれ
この“ねじれ構造”は、実に日本らしい複雑さを持っている。自民党全体を支える気はないが、高市政権の政策には期待する。理由は明白で、自民党には依然として保守政策を阻む勢力が多く、改革の足を引っ張るからだ。
葛飾区議選での結果も象徴的である。高い内閣支持率にもかかわらず、自民党候補は苦戦し、新興勢力や無所属に票が流れた。国政レベルでの支持と、政党組織への不信感がはっきりと分かれた形である。
この流れを見る限り、維新が連立を維持する意義は大きい。もし維新が連立を離脱すれば、自民党は少数与党となり、解散総選挙に打って出る可能性が高まる。そこで“高市人気”が自民党を救う展開になれば、党全体の復活につながりかねない。それは避けたい。
絶妙な均衡が生んだ政治の安定
だが葛飾の流れを見ると、今総選挙をしても自民党が勝つ保証はない。むしろ、党内の面々が「自分は保守です」「高市総理を支えます」と声を上げれば上げるほど、反感を招く可能性すらある。
ただし、総選挙で自民党が負ければ、高市政権は退陣に追い込まれる。次は総裁選となり、小泉総裁という未来も現実味を帯びてしまう。そう考えれば、いまの“絶妙な均衡”を維持することが、むしろ最も安定した選択肢なのかもしれない。
内閣は維新との連立で何とか体制を保ちつつ、積極財政と保守政策に舵を切る。しかし自民党支持は戻らない。こうした二重構造こそ、現在の政治を支える微妙なバランスであり、そのバランスを作り上げたのは、有権者自身である。
歴史はゆっくりだが、確実に動いている。日本はいま、自らの選択によって政治の流れを変えつつある。
