なぜ株価だけが上がったのか──アベノミクスの裏側
株価上昇は本当に景気回復なのか
アベノミクス期の評価としてよく語られるのが「株価の上昇」である。しかし、この株価上昇は必ずしも経済の実態を反映してはいない。そもそも「実体経済」という言葉は曖昧で、数値による定義が存在しない。株価と景気が乖離しているように感じるのは、株価を押し上げる要因が企業活動そのものではなく、政策と制度に強く依存していたからである。
株価を押し上げた低金利とマイナス金利
日本では長期にわたり超低金利政策が続き、銀行預金の利息はほぼゼロになった。お金持ちにとって、銀行に預けていても資産は増えない。そこで資金は株式市場へ向かう。優良企業の株を持てば配当が得られ、リスクを分散すれば預金よりも高いリターンが期待できる。この構造が大量の資金を株式市場に呼び込み、株価を底上げした。
公的マネーによる株価の「下支え」
株価が上昇しやすい第二の理由は、公的資金の大量投入である。GPIF(年金積立金管理運用機構)や日銀のETF購入によって、日本の株式は事実上“下支え”されている。もし株価が下がれば海外資本に企業が買われかねないというリスクもあり、政策的に株価が維持される構造が作られている。これにより、株価は実力以上に安定して上昇しやすくなった。
自社株買いが株価を押し上げる
ストックオプション制度の普及により、経営者が自社の株を保有するケースが増えた。株価が上がれば報酬も増えるため、企業は利益の使い道として設備投資ではなく自社株買いを選択しがちである。デフレ環境下で投資の期待が持てない企業にとって、自社株を買うことは最も効率的に株価を引き上げる方法になってしまう。
円安が招いた外国人投資の流入
第三の理由は円安である。円が安くなれば、外国人投資家にとって日本株は“割安”に見える。同じドルでより多くの株を買えるため、海外マネーが日本の株式市場に流れ込み、さらなる株価上昇を生み出した。だが、この構造には大きな問題がある。円安で収益を上げた企業の配当金は海外に流れ、国内には需要として還元されない。
株価上昇はGDPを押し上げない
株価が上がっても、企業が設備投資を増やさなければ雇用も賃金も増えない。株を売って消費しようとすれば株価は下がるため、株価の上昇は消費拡大とは結びつかない。つまり株価上昇はGDP成長には寄与しないということだ。これは、アベノミクス期に「景気がよくなった気がする」雰囲気だけが生まれた理由でもある。
消費税増税がすべてを逆回転させた
そのわずかな好感ムードの中で、政府は消費税を5%から8%、そして10%へと引き上げた。3%・5%の増税は、国民全員の所得を一斉に削る強力な需要抑制政策である。この増税が市場の需要を一気に冷やし、日本は再びデフレへ逆戻りした。しかも、日銀はすでに大量の国債を買い取っていたため、同じ政策を継続する余地はほとんど残されていなかった。こうしてアベノミクスは手詰まりとなったのである。
