『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』を読む|脳を鍛える最新科学とゲームの意外な効能
『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』を読む:脳を鍛える新しい「遊び方」
「ゲームばかりしているとバカになる」——かつてはそう言われた時代があった。
だが、今やその常識は覆されつつある。
星友啓著『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、ゲームが脳にポジティブな影響を与える科学的根拠を次々に示す一冊だ。
シューティングやRPG、パズルゲームまで、私たちが遊びのつもりでやっていることが、実は「脳のトレーニング」になっている——そんな驚きと発見に満ちている。
科学が証明した「ゲーム脳」の真実
著者によれば、「ゲームをプレーすることで脳自体が変化し、脳の機能がアップする」ことは科学的に確認されている。
たとえば、アクションゲームをする人は空間認識能力や注意力、短期記憶が向上し、脳の前頭葉や海馬の活動が高まることがfMRI研究で明らかになっている。
60〜80代の高齢者にたった12時間のゲームを行ってもらった実験では、なんと20代並みのマルチタスク能力が半年間維持されたという報告もある。
つまり、ゲームは年齢を問わず、脳を若返らせるツールなのだ。
ジャンル別に見る「頭を良くするゲーム」
本書が興味深いのは、ジャンルごとに異なる“脳の伸ばし方”を紹介している点だ。
- 🎯 シューティング・アクションゲーム
→ 反射神経、注意力、空間認識力を高める。 - 🧩 パズルゲーム(テトリス・キャンディクラッシュなど)
→ 判断力や戦略思考、集中力を養う。 - ⚔️ RPG(ドラゴンクエストなど)
→ 問題解決力・論理的思考力を鍛える。 - 🧱 サンドボックス系(マインクラフトなど)
→ 創造性とクリエイティビティを刺激する。 - 🧠 シリアスゲーム(医療・教育目的)
→ 注意欠如多動症(ADHD)やうつの治療にも応用されている。
アメリカ食品医薬品局(FDA)では、ゲームを治療法として認可するケースもあり、
「遊び=学び=治療」という新しい地平が広がりつつある。
「ゲームは悪影響」は都市伝説だった
「暴力的になる」「集中力が下がる」といったゲーム批判は、科学的には根拠が薄い。
確かに1990年代、銃乱射事件などがゲームと結びつけられたが、実際にはFPSゲームの流行期にアメリカの青少年犯罪率は77%も減少している。
また、ゲームをしている子どもほど集中力が低いという研究もある一方で、相関がないという研究も多数。
結果が割れる原因は、「ゲームそのものではなく、家庭環境やメンタル要因が影響している」ことがわかっている。
つまり、ゲームの“悪影響”はほぼ都市伝説に過ぎず、問題は「やりすぎ」だけなのだ。
「ゲームで育つ3つの力」——自己決定理論で読み解く
著者は、心理学の**自己決定理論(Self-Determination Theory)**を軸に、ゲームが私たちのモチベーションをどう刺激するかを解説している。
人間の基本的な心理的欲求は以下の3つ。
- 関係性:人とつながっている感覚
- 有能感:自分はできるという感覚
- 自律性:自分の意思で行動している感覚
ゲームはこの3つを完璧に満たす。
協力プレイで仲間と達成感を共有し(関係性)、クエストをクリアすることで「できた!」という感覚を得て(有能感)、
自由にプレイスタイルを選べる(自律性)。
この3要素がそろうと、**内発的モチベーション(内側から湧くやる気)**が高まり、幸福度も向上する。
だからこそ、私たちは疲れたとき、自然とゲームに手が伸びるのだ。
ゲーム依存症は「やりすぎ」ではなく「心のバランス」の問題
ゲーム依存症の原因は、単に時間の使いすぎではない。
実は、「孤独」「自己否定」「コントロールされすぎ」といった3大欲求の欠如が根底にある。
現実世界で関係性・有能感・自律性が満たされない人ほど、
ゲームの中でそれを取り戻そうとしてのめり込みやすい。
つまり、ゲーム依存を防ぐには、現実の生活の中で“つながり”と“自分らしさ”を回復することが重要なのだ。
成長マインドセットを育てる「遊び方」
『スーパーマリオ』のように、少しずつ難易度が上がるゲーム設計は、心理学的にも理想的だ。
挑戦と達成のバランスが「成長マインドセット(自分は努力で成長できるという信念)」を育てる。
ゲームで培われた“挑戦を楽しむ姿勢”は、勉強や仕事にも応用できる。
実際、研究ではゲームをする人ほど創造性・忍耐力・対人スキルが高いことが示されている。
もはやゲームは娯楽ではなく、「脳を鍛える教育ツール」と言えるだろう。
ゲームは「脳」と「心」を鍛える最高のトレーニング
『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』は、単に「ゲームは悪くない」と擁護する本ではない。
むしろ、科学的根拠に基づいて“正しく遊ぶことの意味”を再発見させてくれる本だ。
疲れたときの一プレイが、ストレス解消だけでなく、脳の可塑性を高め、創造的思考を磨いている。
そして、誰かとつながり、できる感を得て、自分らしく行動する——。
それはまさに、幸せな生き方そのものだ。
まとめ
『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』は、「遊び」と「学び」の境界を消し去る。
脳科学、心理学、教育学が示すのは、「遊びこそ最高の学習」という真理だ。
ゲームを悪者にするのではなく、
自分の成長をデザインするツールとして取り入れる——
それが、これからの時代の“賢い遊び方”だ。
