「なぜ働く?」を見つめ直す。後悔しないキャリアを築くための20の心得|有山徹『なぜ働く?誰と働く?いつまで働く?』
「なぜ働くのか」「誰と働くのか」「いつまで働くのか」。
この3つの問いに明確な答えを持っている人は、どれくらいいるだろうか。大きな不満はないけれど、心から満足しているとも言えない。そんな曖昧な状態のまま、毎日を過ごしていないだろうか。
有山徹さんの著書『なぜ働く?誰と働く?いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』は、そんな「働く意味」を問い直す自己啓発書だ。本書のベースには、ダグラス・T・ホール教授が提唱したプロティアン・キャリア理論がある。これは「キャリアを自律的にデザインし、環境に適応しながら変化していく」生き方を示す考え方であり、人生の主導権を自分の手に取り戻すための理論である。
■ 「満足していないけど不満もない」──その理由は?
多くの人が抱える「不満はないけど、満足もしていない」という感情。
アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグは、仕事の満足度を「衛生要因(不満を防ぐ要素)」と「動機付け要因(やる気を生む要素)」に分けて説明した。給与や職場環境といった“衛生要因”が整っていても、それだけでは心の満足にはつながらない。本当に満たされるのは、評価や成長実感といった“動機付け要因”に気づいたときだ。
有山氏は、ここに「人生の解像度」という概念を加える。
つまり、「自分が何を求めているのか」「どんな状態を幸せと感じるのか」を明確にすること。これが、後悔のないキャリアを歩む第一歩なのだ。
■ 「心理的成功」を得るために必要な3つのステップ
著者は、「心理的成功」とは、他人と比較して得られる地位や収入ではなく、自分自身の納得から生まれる充足感だと語る。
そのために重要なのが、次の3つのプロセスである。
- 言語化:自分の価値観や思いを言葉にする
- 価値化:過去の経験やスキルに価値を見出す
- 行動:小さな一歩でも動き出す
この3つを繰り返すことで、人生の「解像度」が上がり、自分の進むべき道が少しずつ見えてくる。
■ 言語化:自己理解の扉を開く「ジョハリの窓」
自分を理解するための第一歩が「言語化」だ。
著者は、心理学の「ジョハリの窓」を使って、自分と他者の関係を整理することを勧めている。特に「開放の窓(自分も他人も知っている自分)」を広げること、つまり自己開示がカギになるという。
自分の強みや価値観を他者に共有することで、思いがけない仕事のチャンスや人との出会いが生まれる。怖がらずに自分を見せていくことが、キャリアの可能性を広げるのだ。
■ 価値化:「比べる」ではなく「並べる」発想を
人はつい、自分と他人を比べて落ち込んでしまう。
しかし著者は、「比べるのではなく、並べるように考える」ことを提案する。
たとえば、都会で培ったスキルが、地方では貴重な強みになることがある。
また、過去に経験した仕事が、別のフィールドで思いがけない形で活かされることもある。
自分の過去や経験を“ないもの”ではなく、“あるもの”として価値化する視点を持つことが大切だ。
この「横の関係性」を広げる力を、著者は**変化適応力(アダプタビリティ)**と呼ぶ。
変化の激しい今の時代にこそ、必要なスキルである。
■ 自分で決める「定年」──人生の輪郭をはっきりさせる
著者が印象的に語るのが、「自分定年」という考え方だ。
「いつまで働かされるか」ではなく、「いつまで働きたいか」を自分で決める。
その瞬間から、仕事の意味が変わってくる。
もし「あと10年しか働けない」としたら、今の時間をどう過ごすだろうか。
限りある時間を意識することで、人生の優先順位がクリアになっていく。
■ 行動:動くことでしか見えない景色がある
本書の終盤で有山氏は、「AI時代においても人間がAIに勝るものがあるとすれば、それは“行動”だ」と語る。
行動を起こすことでしか、経験も出会いも得られない。
そして、行動した人だけが「自分の物語」を書き換えていけるのだ。
■ まとめ:あなたの人生は、まだ途中だ
『なぜ働く?誰と働く?いつまで働く?』は、キャリアに迷うすべての人に向けたやさしい羅針盤のような本だ。
「過去はすべてキャリアのプロセスである」という言葉が、特に心に残る。
今がどんな状況でも、人生はまだ途中。どんな経験も、次のステージへの伏線になる。
働くことに悩んでいる人、自分の軸を見失いかけている人に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。
きっと読み終えたあと、「自分の人生を自分で舵取りしたい」という静かな勇気が湧いてくるはずである。
