リハビリ関連

Prefemoral Fat Pad(PFP)の肥厚・線維化が膝屈曲可動域に及ぼす影響と治療戦略

taka

はじめに

膝関節の前方には複数の脂肪体が存在し、その中でも**Prefemoral Fat Pad(PFP)**は膝蓋上嚢を裏打ちするように位置しています。通常は膝屈曲に伴って大腿骨滑車前面から内外側に分布しながら再配列し、クッションのように動態をサポートします。

しかし、加齢変化や膝伸展機構への外傷が繰り返されると、PFPが肥厚や線維化を起こし、正常な形態変化が失われます。この結果、膝関節屈曲可動域に制限が生じ、疼痛や動作障害につながります。


PFPの解剖学的特徴と役割

  • 位置:膝蓋上嚢と大腿骨滑車遠位前面の間
  • 役割
    • 屈曲・伸展に伴う膝前方組織の緩衝作用
    • 膝蓋上嚢の動態を補助
    • 大腿四頭筋と関節包の滑走を円滑にする

PFPが正常に機能している場合、膝屈曲時に内側および外側へ動態的に分散し、膝前方の圧負荷を吸収しています。


PFPの肥厚・線維化と膝屈曲制限

発生要因

  • 膝OAに伴う炎症性変化
  • 膝伸展反復動作による微小外傷
  • 外傷後や術後の瘢痕化

病態の進行

  • 肥厚:膨隆した状態で柔軟性を失う
  • 線維化:弾性が低下し、滑走性が著しく障害される

この結果、膝屈曲時にPFPが大腿四頭筋や滑膜組織と干渉し、膝蓋骨の動態を阻害して屈曲可動域制限を引き起こします。


臨床的な問題点

  • 膝屈曲角度の減少
  • 膝前部痛の出現(特に膝伸展運動時)
  • 膝蓋骨求心性の乱れ
  • 伸展機構の効率低下

これらの症状は、PFPそのものの問題に加え、膝蓋下脂肪体(IPF)や大腿四頭筋の滑走性障害とも複合的に関与します。


治療戦略:PFPに対するアプローチ

1. 伸展機構の緊張抑制

大腿直筋などの伸展機構が過緊張していると、PFPを持ち上げる操作が難しくなります。まずは直筋の活動を抑制した肢位で調整を行い、深層組織の操作をしやすい環境を作ります。

2. ダイレクトストレッチング

  • 操作方法:PFPを内側・外側方向にグライディング
  • 目的:線維化した組織の柔軟性を取り戻し、膝屈曲運動時の滑走を円滑にする
  • 注意点:圧刺激は適度に調整し、過剰な炎症を誘発しないよう配慮

3. 滑走性改善による効果

PFPの柔軟性を回復させると、以下の改善が期待できます。

  • 大腿四頭筋の滑走性向上
  • IPFの組織弾性低下を補助
  • 伸展機構全体の効率化
  • 膝関節伸展角度・屈曲可動域の改善

運動療法の実践ポイント

  1. 膝屈曲運動の導入
    • PFPの柔軟性を活かし、膝蓋骨の滑走を意識した屈曲運動を段階的に行う
  2. セッティング・SLR(Straight Leg Raising)
    • 伸展機構の活動を円滑化し、PFPの動態をサポート
  3. 荷重動作の再教育
    • 立ち上がりや歩行など日常動作での膝前方ストレスを軽減
    • 滑走性を保った状態で負荷を加えることが重要

まとめ

  • PFPは膝蓋上嚢を裏打ちする脂肪体で、膝屈曲運動におけるクッション作用を担う
  • 肥厚・線維化が生じると柔軟性と滑走性を失い、膝屈曲可動域を制限する
  • 臨床対応では、伸展機構の緊張を抑え、ダイレクトストレッチングによる滑走性改善が有効
  • PFPの柔軟性を維持・回復することは、膝関節可動域の改善と疼痛軽減に直結する

膝OAや膝前部痛の症例では、PFPを含む脂肪体の状態を必ず評価し、治療計画に組み込むことが臨床成果を高める鍵となります。

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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
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