痛みを正しく理解するために
臨床において「痛み」は患者の主訴として最も多く、セラピストが評価・介入する際に避けて通れないテーマです。しかし一口に「痛み」といっても、その原因やメカニズムは多様であり、アプローチの方向性も異なります。
痛みは大きく 「器質的疼痛」 と 「非器質的疼痛」 に分けられ、器質的疼痛はさらに 「侵害受容性疼痛」 と 「神経障害性疼痛」 に分類されます。
① 侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛(nociceptive pain) は、外部からの刺激を末梢神経に存在する侵害受容器が感知し、その情報が脳へ伝達されることで生じる痛みです。
- 原因となる刺激
- 打撲や捻挫といった物理的刺激
- 火傷などの熱刺激
- 虚血や炎症による疼痛物質の発生に伴う化学的刺激
臨床で遭遇する痛みの大部分は、この侵害受容性疼痛に含まれます。急性期の外傷や炎症に関連する痛みとして理解するのが基本です。
👉 臨床での評価のポイント
- 痛みの発症機序が明確か(外傷や炎症など)
- 疼痛部位が限局しているか
- 安静や適切な処置で痛みが軽減するか
これらの特徴を捉えることで、侵害受容性疼痛を推定できます。
② 神経障害性疼痛
神経障害性疼痛(neuropathic pain) は、末梢神経や中枢神経そのものが損傷・圧迫を受けることで発生する痛みです。
代表例としては以下が挙げられます。
- 帯状疱疹後神経痛
- 糖尿病性神経障害
- 脊髄損傷や坐骨神経痛に伴う神経圧迫
神経障害性疼痛は侵害受容性疼痛と異なり、持続性が強く、「しびれ」「灼熱感」「電気が走るような痛み」 などの特徴的な訴えがみられます。
👉 臨床での評価のポイント
- 神経の走行に沿った痛みがあるか
- 感覚障害(しびれ・異常感覚)を伴うか
- 安静時にも痛みが持続するか
これらを把握することが、リハビリ介入の方向性を決めるうえで不可欠です。
③ 非器質的疼痛
非器質的疼痛(non-organic pain) は、画像所見や器質的病変では説明がつかない痛みを指します。かつては「心理的疼痛」と呼ばれていましたが、現在は非器質的疼痛という表現が一般的です。
特徴としては、情動的・認知的要素が強く影響している点が挙げられます。過去の痛みの経験、不安や抑うつ、過剰な痛みへの注意や誤った認知が、痛みを強めているケースです。
👉 臨床での評価のポイント
- 器質的な損傷が明確に認められない
- 症状が不定で、部位や強さが変化しやすい
- 心理社会的背景(ストレス、仕事、家庭環境)による影響が大きい
この場合、徒手療法や運動療法だけでなく、患者教育や心理的サポート が不可欠となります。
臨床での活かし方
痛みの分類を理解することは、単に学術的な整理にとどまりません。実際の臨床では次のように活用できます。
- 疼痛評価の精度を高める
痛みの性質を見極めることで、誤った治療を避けることができます。 - アプローチの優先順位を決める
急性期の侵害受容性疼痛では安静や消炎が中心ですが、非器質的疼痛では心理的介入が優先されることもあります。 - 患者への説明に役立つ
「あなたの痛みは神経の障害によるもの」「心理的要因も影響している」と伝えることで、患者自身が痛みを理解し、安心感を持てます。
まとめ
- 痛みは 侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・非器質的疼痛 の3つに分類される
- 臨床で多いのは侵害受容性疼痛だが、神経障害性や非器質的疼痛も少なくない
- セラピストは「どのタイプの痛みか」を見極め、適切な治療戦略を立てる必要がある
痛みの分類を理解することは、評価の精度を高め、患者に寄り添ったリハビリを実践するための基盤となります。