ファシアとは何か?
リハビリテーションの現場で「筋膜リリース」という言葉が定着していることもあり、Fascia(ファシア)=筋膜と理解されるケースが多いです。しかし、厳密にはファシアは「筋肉を包む膜」に限らず、全身に存在する膜状の組織を含む概念です。
ファシアの例としては以下のものがあります。
- 骨膜
- 関節包(線維膜・滑膜)
- 支帯
- 筋間中隔
- 神経上膜
- 硬膜
- 疎性結合組織
つまり、ファシアとは 全身を繋ぎとめる薄い膜組織のネットワーク であり、その上位概念に「結合組織」が存在します。
筋実質を包むファシアの3層構造
筋肉を包むファシアは3層構造を成しています。
- 筋内膜(Endomysium)
個々の筋線維を包む薄い膜 - 筋周膜(Perimysium)
筋線維を束ねた筋束を包む膜 - 筋外膜(Epimysium)
筋全体を包む膜で、深筋膜と連続
筋線維の約 63%は腱を介して骨に付着 しますが、残りの 約37%は深筋膜に直接付着 しています。このことからも、筋と深筋膜は非常に密接に関わっていることが分かります。
深筋膜は全身の筋群を繋ぎ合わせるように連続しており、そのネットワークが時に離れた部位に痛みを生じさせる原因となります。
関節包と滑膜の役割
ファシアの一部である 関節包 は、骨膜が関節部で移行した構造です。そのため骨膜と同様に神経が豊富に分布しています。
関節包は二層構造になっています。
- 線維膜(外層):強度を担い、関節を安定させる
- 滑膜(内層):血管が豊富で、関節液を分泌し、関節軟骨に栄養を供給
滑膜炎と関節液貯留
滑膜に炎症が起こると、関節液が過剰に分泌され「関節内に水が溜まった状態」となります。原因として代表的なのは、関節軟骨が摩耗して剥がれ、その断片が滑膜を刺激することです。
この現象は変形性関節症などでよく見られ、疼痛と関節機能障害の一因となります。
疎性結合組織の役割
ファシアの一部である 疎性結合組織 は、組織や細胞の間を埋め、体の構造を支える役割を持っています。柔軟性に富み、他の組織を滑らかに動かすクッションのような存在でもあります。
疎性結合組織が線維化や癒着を起こすと、局所の可動性が低下し、疼痛や動作制限に繋がります。臨床で「動かすと突っ張る」「違和感がある」といった訴えは、この疎性結合組織の滑走障害によるものかもしれません。
臨床での意義:ファシアをどう捉えるか
ファシアは「筋膜」だけにとどまらず、骨・関節・神経を含めた全身的なネットワークであることを理解することで、臨床での疼痛評価に活かせます。
- 筋膜由来の痛み
筋の停止部に発生しやすい。過緊張や滑走不全による伸張ストレスが原因。 - 関節包由来の痛み
関節運動時に強まりやすい。特に滑膜炎では腫脹や熱感を伴う。 - 疎性結合組織由来の痛み
明確な炎症所見がなくても「突っ張り感」や「滑走制限」が主訴になる。
👉 セラピストに求められる視点
局所の構造を診るだけでなく、ファシアを介した全身的なつながりを考慮し、「なぜその部位に痛みが出ているのか」を推論することが大切です。
まとめ
- ファシア=筋膜ではなく、骨膜・関節包・神経周膜など全身に広がる膜組織を含む広い概念である
- 筋線維の約37%は深筋膜に付着し、筋とファシアは密接に関係している
- 関節包は線維膜と滑膜の二層構造で、滑膜炎は関節液貯留の原因となる
- 疎性結合組織は体の柔軟性と滑走性を担うが、癒着すれば疼痛源となる
ファシアを「全身を繋ぐ膜組織」として理解することで、疼痛評価や治療における新たな視点が得られます。