リハビリ関連

膝窩筋腱の付着部様態を理解する:多様な解剖構造と臨床での意義

taka

はじめに

膝窩筋(popliteus muscle)は、膝関節後外側の深層に位置する小筋ながら、膝後外側支持機構(posterolateral corner:PLC)の重要な構成要素です。
膝窩筋腱は、外側半月板・後方関節包・腓骨頭など複数の構造と連結し、膝の回旋安定性・関節包牽引・滑走制御など多面的に関与します。

しかし近年の解剖学研究により、その付着形態には個体差(variation)が非常に多いことが明らかになってきました。
本記事では、膝窩筋腱の付着様態を3つの観点から整理し、臨床における理解と応用を解説します。


① 腓骨頭および後方関節包への付着

膝窩筋腱は、98%のケースで腓骨頭に付着しており、その際に膝窩腓骨靭帯(popliteo-fibular ligament)を介しています。
この構造により、膝窩筋は脛骨だけでなく腓骨の後方安定化
にも関与します。

膝窩筋の起始はヒラメ筋線直上の脛骨後面であるため、筋収縮時には脛骨に対して腓骨が外旋方向に回転するような力が働きます。
一方、長趾伸筋(extensor digitorum longus)は腓骨前面に付着し、腓骨を前方へ引く力を発揮するため、
両者は近位脛腓関節における拮抗筋的関係を形成しています。

さらに膝窩筋は、57%のケースで後方関節包に付着しており、屈曲時に大腿骨顆部と脛骨顆部の間で起こる後方関節包インピンジメントを回避する役割を果たしています。
残りの43%では、大腿二頭筋短頭が同様の機能を担うことが確認されており、両者が後方関節包牽引メカニズムを補完しています。


② 外側半月板との付着とそのバリエーション

一般的な解剖書では、膝窩筋は外側半月板後節部に付着し、膝屈曲時に外側半月板を後方へ牽引することでインピンジメントを防ぐとされています。
しかし、近年の解剖報告によると、この付着様態には大きな個体差があることが分かっています。

  • 45.0%:膝窩筋が外側半月板に付着していない
  • 37.5%:疎な結合
  • 17.5%:密な結合

つまり、半数近くの症例では膝窩筋が外側半月板と直接結合していないという事実が明らかになっています。

このため、膝屈曲時に外側半月板後節部で疼痛がみられた場合でも、
「外側半月板の病変」だけでなく、膝窩筋やその腱滑走障害による影響をまず考慮すべきです。
臨床的には、膝窩筋の緊張緩和や滑走改善を優先することで、半月板症状が軽減するケースも少なくありません。


③ 膝後外側支持機構との連携とPLRIとの関係

膝窩筋は、LCL(外側側副靭帯)、弓状靭帯(arcuate ligament)、膝窩腓骨靭帯などとともに**膝後外側支持機構(PLC)**を構成しています。
この領域は「バリエーションが豊富」といわれ、靭帯の発達度や結合の強さが個体によって異なります。

とくに、弓状靭帯が発達している例では、膝窩筋との結合が強固で、外旋ストレスに対する制動力が高まります。
一方、膝窩筋の筋腹は扁平かつ筋長が短いため、単独では外旋不安定性を完全に防ぐほどのトルクを発揮しません
そのため、膝後外側支持機構は複数組織の協調によって安定性を発揮する複合システムと考えられています。

逆に、PLRI(postero-lateral rotational instability:後外側回旋不安定症)の症例では、
この協調機構が破綻している可能性が高く、LCL・膝窩筋・弓状靭帯など複数の構造損傷が関与していると考えられます。


臨床応用:膝後方拘縮と外旋不安定症への対応

膝後外側動性障害や伸展拘縮を呈するケースでは、膝窩筋および大腿二頭筋短頭の収縮運動が有効な介入手段となります。
これらの筋の適切な収縮により、

  • 後方関節包の牽引 → インピンジメント回避
  • 膝屈曲時の動的安定化 → 外旋制御
    が促進され、伸展可動域の改善にも寄与します。

特にリハビリでは、膝屈曲位での軽度内旋運動トレーニング膝窩筋滑走促通エクササイズを取り入れることで、
膝外側構造の連動性を回復させることが期待されます。


まとめ

膝窩筋腱の付着様態は、腓骨頭・後方関節包・外側半月板など複数の構造に及び、その結合様式には大きな個体差があります。

  • 腓骨頭への付着:98%
  • 後方関節包への付着:57%
  • 外側半月板への付着:55%(うち密結合は17.5%)

この多様性こそが、膝後外側部の複雑な機能性と適応性を支えているといえます。

臨床では、膝窩筋を単独の筋としてみるのではなく、LCL・外側半月板・大腿二頭筋短頭などとの協調体として評価・治療することが、
PLRIや膝外側痛の改善に直結します。

スポンサーリンク
ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士/ビール
理学療法士として臨床に携わりながら、リハビリ・運動学・生理学を中心に学びを整理し発信しています。心理学や自己啓発、読書からの気づきも取り入れ、専門職だけでなく一般の方にも役立つ知識を届けることを目指しています。
スポンサーリンク
記事URLをコピーしました