Contents
はじめに
変形性膝関節症(KOA)の疼痛は、単に関節軟骨の摩耗に起因するだけでなく、滑膜や膝関節脂肪体(IFP)の炎症および神経支配が深く関わっています。
特に近年注目されているのが、**カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)**です。
CGRPは痛み・炎症・血管新生を促進する神経ペプチドで、片頭痛の治療標的としては既に臨床応用が進んでいます。本記事では、IFPとCGRPの相互作用がKOAにおける炎症・疼痛機構にどう関与するかを整理します。
IFPにおけるCGRPの存在
- CGRP陽性神経線維はIFP内部に分布し、KOAにおいてその発現が増加。
- CGRP受容体は関節求心性神経に存在し、炎症や疼痛の増強に関与。
- **炎症性サイトカイン(IL-1β, TNF-αなど)**や滑膜細胞由来因子によってCGRP発現が制御される。
CGRP発現を制御する分子経路
COX-2/mPGES-1/PGE2経路
- COX-2(炎症酵素) → mPGES-1 → PGE2 の経路がCGRP発現を増強。
- この調節作用は特にIFPで顕著であり、滑膜では同様の効果は認められない。
👉 つまり、IFPはCGRP発現を制御する炎症性ハブである可能性が高い。
CGRPの炎症・線維化作用
- 疼痛促進
- CGRPは侵害受容性神経活動を増強し、慢性疼痛を誘発。
- 血管新生促進
- CGRPは内皮細胞の増殖・遊走を促進し、新生血管形成を助長。
- KOA患者の線維化したIFPでは、新生血管領域にCGRP陽性神経終末が増加。
- 線維化悪化
- 血管新生と炎症性因子の増加により、IFPの線維化進行が加速。
- これが周囲関節組織の炎症悪循環に寄与。
臨床的意義と治療ターゲット
抗CGRP抗体療法
- 片頭痛治療薬として既に承認済みの抗CGRP抗体は、CGRPシグナルを遮断し疼痛を抑制。
- KOAにおいても、疼痛制御・炎症抑制・線維化抑制の可能性あり。
炎症経路標的
- COX-2阻害薬(NSAIDs)やmPGES-1阻害薬により、CGRP発現を間接的に制御できる可能性。
- 特に、NSAIDsの一部効果はCGRP抑制を介していると考えられる。
まとめ
膝関節脂肪体(IFP)は、CGRP陽性神経線維を豊富に含む疼痛感受性組織です。
- CGRPは疼痛・炎症・血管新生・線維化に関与し、KOA進行を加速
- COX-2/mPGES-1/PGE2経路がCGRP発現制御の鍵
- 抗CGRP抗体療法は新たなKOA治療ターゲットとなる可能性
今後、IFPとCGRPの双方向的関係を解明することで、KOAの疼痛管理や炎症制御に新しい治療戦略が拓かれると期待されます。