はじめに
臨床で遭遇する坐骨神経痛の多くは、理学的所見を基に切り分けていくとL5・S1神経根由来の病態が圧倒的多数を占めています。本稿では、従来の評価法に加え、L5・S1神経根障害をより詳細に鑑別するための筋力評価について解説します。
従来の坐骨神経痛の評価
坐骨神経痛に対する理学療法評価の一般的な流れは以下の通りです。
- 画像所見(MRI)
椎間板ヘルニアや狭窄など、器質的異常を把握。 - 下肢伸展挙上テスト(SLR)
- 患肢の挙上角度が小さい → 根性(神経根)障害の可能性が高い。
- 挙上角度が大きい → 末梢性要因(梨状筋や坐骨神経レベルなど)の関与を示唆。
- 梨状筋・外旋筋群の評価
圧痛テストや伸張誘発テストで末梢要因を確認。
SLRと伸張誘発テストを組み合わせることで病態の大枠は絞れますが、効果が不十分なケースや再発例では、より詳細な評価が必要になります。
腰部神経根(L5・S1)の評価
坐骨神経痛の原因をより的確に鑑別するためには、筋力評価による神経根レベルの判別が重要です。特に注目すべきは以下の2つです。
1. 母趾伸展筋力
- 評価方法:最終域で等尺性収縮を保持できるか確認。
- 筋力低下がある場合:
- L5神経根症
- 坐骨神経レベルの障害
- 総腓骨神経レベルの障害 の可能性を考慮。
2. 股関節外転筋力
- 評価方法:側臥位で股関節伸展位・内旋位にて外転を保持し、等尺性収縮を確認。
- 筋力低下の兆候:
- 内旋位保持が困難
- 代償動作(屈曲・骨盤のブレ)が出現
- 主動作筋:中臀筋・小臀筋(上臀神経支配)。
- 臨床的意義:股関節外転筋力低下は、梨状筋より近位での障害や仙骨神経叢・神経根レベルの障害を示唆。
臨床的なまとめ
- 母趾伸展筋力低下と股関節外転筋力低下の両方を認める場合、L5・S1神経根障害または仙骨神経叢の障害を強く示唆。
- 単にSLRや圧痛テストに頼るのではなく、神経根支配筋の機能評価を組み合わせることで病態を精緻化できる。
まとめ
- 坐骨神経痛の多くはL5・S1神経根障害が関与。
- MRI・SLR・伸張誘発テストに加え、母趾伸展・股関節外転の筋力評価が有効。
- 筋力低下の有無から神経根レベルを推定し、適切な理学療法戦略を立てることが重要。
臨床では、従来評価と神経根筋力評価を組み合わせることで、より精度の高い病態把握が可能になります。