高位橈骨神経絞扼とは?
High Radial Nerve Entrapment(HRNE) とは、橈骨神経(Radial Nerve, RN)が腕神経叢から分岐して肘窩上で分枝するまでの経路で圧迫を受ける病態を指します。
単なる末梢障害ではなく、運動・感覚の両症状を呈することが特徴です。橈骨神経自体だけでなく、その枝である後骨間神経(Posterior Interosseous Nerve, PIN)の支配筋にまで機能障害が及ぶ場合もあります。
症状と臨床像
- 運動障害:手関節伸展・MP関節伸展の障害、把握力低下
- 感覚障害:前腕背側〜手背橈側にかけてのしびれや感覚低下
- 関連痛:近位部での圧迫では肩甲周囲〜橈骨溝、回外筋、橈骨茎状突起付近へ放散痛を伴うこともある
臨床では「手首が垂れる(wrist drop)」と表現される症候が典型的です。
主な原因
- 外傷性要因
- 上腕骨骨幹部骨折に合併(2〜17%でRN麻痺、RN障害の70%を占める)
- 骨癒合過程での仮骨形成による圧迫
- 線維性瘢痕や骨性トンネルの形成
- 非外傷性要因
- 腫瘍による直接圧迫
- 筋肥大や線維性バンド(例:上腕三頭筋・大円筋起始部の肥厚による三角間隙での絞扼)
- 医原性(iatrogenic)
- 骨折観血的整復内固定術時の牽引・展開・スクリュー/プレート挿入時損傷
- 術後炎症反応による神経周囲線維化
報告によると、橈骨神経は**後方進入(20%)、外側進入(11%)、前外側進入(4%)**で一過性障害が起きやすいとされます。
鑑別診断:頸椎神経根症との違い
HRNEはしばしば C6〜C7神経根症 と症状が類似します。
- 頸椎神経根症
- 首から放散する片側性の痛み
- 皮膚知覚障害はデルマトームに沿って出現
- 筋力低下はミオトームに一致
- Wainner’s cluster(Spurlingテスト、頸部回旋、牽引、上肢神経伸展テスト)で3/4陽性なら可能性高い
- HRNE
- 上腕〜前腕での局所的絞扼所見
- 橈骨神経支配領域の運動・感覚障害が主体
- 頸部症状が乏しい
臨床ではEMG(筋電図)や画像診断(X線・MRI・CT)を併用することで、誤診を防ぐことが重要です。
注意すべき臨床ポイント
- HRNEは1か所の障害に限らず、複数点で絞扼している場合もある(報告例では1本の神経で2〜5か所の狭窄)。
- 外見上異常がなくても、内部で神経が多点性に圧迫されていることがある。
- 感覚症状が乏しく、運動障害が主体のケースも存在する。
まとめ
高位橈骨神経絞扼(HRNE)は、上腕骨骨折や術後合併症に多く見られる病態で、運動・感覚障害を呈します。
- 骨折後・術後患者では必ず意識して観察する
- 頸椎神経根症との鑑別を丁寧に行う
- 多点性絞扼の可能性を考慮する
これらを押さえておくことで、診断の精度が上がり、適切な治療介入につながります。