からだの各部位

慢性疼痛を理解する鍵:筋コンパートメント症候群との関係性

慢性疼痛は、急性疼痛と異なりその解釈が難しい症状のひとつです。明らかな組織損傷が存在する急性疼痛であれば、外傷や炎症といった原因が比較的明確に特定できます。しかし慢性疼痛では、その持続性と複雑性のために一筋縄ではいきません。

近年、慢性疼痛の一部は「筋コンパートメント症候群」として捉えると理解しやすいと考えられています。特に、姿勢異常や股関節不安定症に伴う筋連縮は、慢性疼痛の背景に潜む重要な要素です。

筋コンパートメント症候群とは

筋コンパートメント症候群とは、筋肉内の圧力(筋内圧)が異常に上昇することで疼痛を生じる病態です。本来、筋肉は筋膜に囲まれており、運動によって生じる一時的な圧力変化は筋膜の伸縮によって調整されています。しかし、何らかの理由で筋内圧が持続的に上昇すると、疼痛や循環不全を引き起こします。

筋内圧を決定する要因には、以下の3つがあります。

1. 筋肉自体の腫脹

手術後や外傷後に生じる筋腫脹は、急性疼痛と同様に筋内圧を上昇させます。これは比較的理解しやすいメカニズムであり、臨床現場でもよく遭遇します。

2. 筋肉の攣縮(スパスム)

慢性疼痛に深く関わるのが、筋の持続的な攣縮です。スパスムは、関節周辺に加わる侵害刺激や関節内炎症を契機として生じる「侵害受容反射」によって起こります。関節包や靭帯には知覚神経終末が多く存在しており、感作された刺激が脊髄反射を形成し、筋収縮が続いてしまうのです。

持続的な筋収縮は、筋内圧を上昇させるだけでなく、静脈を圧迫し鬱血を引き起こします。その結果、さらに筋腫脹が進行し、疼痛が増強するという悪循環に陥ります。このような筋を触診や運動負荷で圧迫すると、強い痛みが誘発されることが特徴です。

3. 筋膜による圧力調整の障害

通常、筋膜は筋肉の動きに合わせて柔軟に滑走し、筋内圧の変動を吸収します。しかし、筋膜の硬化や隣接組織との癒着があると、圧力を逃がすことができません。結果として筋内圧が高まり、慢性疼痛の原因となります。

慢性疼痛を理解する臨床的視点

慢性疼痛を単なる「心理的要因」や「不定愁訴」として片付けてしまうのは不十分です。背景には筋連縮や筋膜の機能障害といった、明確な身体的要因が存在している可能性があります。

理学療法士・作業療法士が評価すべきポイントとしては、

  • 姿勢異常(特に骨盤・股関節周囲の安定性)
  • 筋の持続的な緊張や攣縮の有無
  • 筋膜の可動性や滑走性の低下

などが挙げられます。これらを総合的に判断することで、慢性疼痛の本質に迫ることが可能となります。

臨床への応用

実際の臨床場面では、慢性疼痛患者に対して以下のようなアプローチが考えられます。

  • 筋攣縮の緩和:ストレッチング、徒手的リリース、呼吸法などを用いて筋緊張を軽減する。
  • 筋膜の柔軟性改善:筋膜リリースや適度な運動で筋膜の伸縮性を取り戻す。
  • 股関節や体幹の安定性強化:不安定性を改善することで侵害刺激の反復を防ぐ。
  • 血流改善:低強度の有酸素運動や循環促進を目的とした運動療法を導入する。

こうした介入は単なる対症療法ではなく、慢性疼痛の根本的な改善に結びつきます。

まとめ

慢性疼痛は単純に「治りにくい痛み」として捉えるのではなく、筋内圧の上昇や筋膜機能の障害といったメカニズムを理解することが重要です。筋コンパートメント症候群の視点を取り入れることで、評価・治療の新たな切り口が得られるでしょう。

臨床家にとって、慢性疼痛の本質を理解することは、患者の生活の質を向上させる大きな一歩になります。

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taka
理学療法士TAKAが自分の臨床成果を少しでも高めるために、リハビリ・運動学・生理学・物理療法について学んだ内容を発信。合わせて趣味の読書や自己啓発等の内容の学びも自己満で発信するためのブログです。