脊柱

上殿皮神経の走行とは?中・下殿皮神経まで絞扼部位を4つの研究で解説

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腰から殿部にかけての痛みを訴える患者さんで、MRIを撮っても原因がはっきりしない、神経根症状のようで検査所見が合わない、という経験はありませんか。そうしたときに候補に入れておきたいのが、腰部から殿部の皮膚を支配する殿皮神経です。筋や椎間板ばかりに目が向きがちですが、皮神経が骨や筋膜の間で締めつけられて痛みを起こすことがあります。

この記事では、4本の論文をもとに、上殿皮神経・中殿皮神経・下殿皮神経の走行と、絞扼が起こりやすい部位を解説します。1本目は殿皮神経全体を理学療法の視点でまとめた総説(Haładaj, 2026)です。2本目は上殿皮神経の起始を献体で詳しく調べた研究(Konno ら, 2017a)、3本目は上殿皮神経の障害を834名の患者で調べた前向き研究(Kuniya ら, 2014)です。4本目は中殿皮神経の絞扼を献体で初めて示した研究(Konno ら, 2017b)です。

この記事のポイント

  • 上殿皮神経と中殿皮神経は脊髄神経の後枝から、下殿皮神経は前枝から起こる。出どころが違うため、絞扼される場所も症状の出方も異なる
  • 上殿皮神経は腸骨稜を越える部位で、胸腰筋膜と腸骨稜がつくる骨線維性トンネルを通ることがあり、ここで絞扼されやすい
  • トンネルを通る上殿皮神経の枝は主にL4・L5由来で、腰痛の患者さんの約14%に上殿皮神経障害が疑われ、その約半数に下肢症状があった
  • 中殿皮神経は上後腸骨棘の少し下で長後仙腸靭帯の下を通ることがあり、仙腸関節痛と見分けにくい痛みの原因になりうる
Contents
  1. 殿皮神経とは?上・中・下の3種類の違い
  2. 4つの研究の概要
  3. 上殿皮神経の研究でわかったこと
  4. 中殿皮神経の研究でわかったこと
  5. 臨床でどう活かすか
  6. この研究の限界と読み方の注意
  7. よくある質問
  8. まとめ
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殿皮神経とは?上・中・下の3種類の違い

殿皮神経(cluneal nerves)は、腰の下部、殿部、大腿後面の上部の皮膚の感覚を担う神経の総称です。運動には関わらない純粋な感覚神経で、上・中・下の3種類に分けられます。Haładaj(2026)の総説は、この3種類は起始も走行も異なる「寄せ集め」の神経群であり、骨や筋膜との位置関係から機械的な刺激や絞扼を受けやすいと述べています。

前提知識:脊髄神経の前枝と後枝

殿皮神経を理解するには、脊髄神経の枝分かれを押さえておく必要があります。椎間孔を出た脊髄神経は、すぐに前枝と後枝に分かれます。前枝は体の前面や四肢へ向かい、腰神経叢や仙骨神経叢をつくります。坐骨神経や大腿神経は前枝からできた神経です。

一方、後枝は背中側へ向かい、脊柱起立筋などの固有背筋と、背中の皮膚を支配します。後枝はさらに内側枝と外側枝に分かれ、外側枝の一部が皮膚まで達して皮神経になります。上殿皮神経と中殿皮神経は、この後枝の外側枝に由来します。

総説では、臨床解剖学はこれまで前枝を重視し、後枝やその皮枝は臨床的に重要であるにもかかわらず注目されてこなかったと指摘しています。教科書の記載が少ないことも、殿皮神経の障害が見逃されやすい理由の一つです。

上殿皮神経:腰神経の後枝から腸骨稜を越える

上殿皮神経は、腰神経の後枝の外側枝から起こります。教科書ではL1〜L3由来と書かれることが多い神経です。総説によると、上殿皮神経の枝は腰部の腸肋筋を貫いて外側に出てきます。その後、数cm下行して胸腰筋膜を貫き、皮下で腸骨稜を越えて殿部上部の皮膚に分布します。

総説で紹介されている献体研究では、上殿皮神経が腸肋筋を貫く割合は、L1由来とL2由来で58.3%、L3由来で83.3%でした。つまり上殿皮神経は、筋の中、筋膜の下、骨の上と、性質の異なる組織の間を次々に通り抜ける神経です。この「通り抜ける場所」が多いことが、絞扼の起こりやすさにつながっています。

腸骨稜を越える部分では、胸腰筋膜と腸骨稜の上縁がつくる骨線維性トンネルの中を通ることがあります。総説はこのトンネルを狭く硬い構造と表現し、絞扼が起こる重要な部位だとしています。腸骨稜に神経が通る溝が見つかった例は、調べた側の55%にのぼり、その多くは上殿皮神経の内側枝でした。

総説は、解剖学的な変異も絞扼のなりやすさに影響しうると述べています。仙骨の後面から腸骨稜へ向かって皮下を走る、異常な筋の束が報告されているのです。こうした筋束は神経の周囲の環境を変え、腸骨稜の高さで神経を圧迫するもう一つの原因になりうると考えられています。

中殿皮神経:仙骨神経の後枝から殿部内側へ

中殿皮神経は、仙骨神経の後枝の外側枝から起こり、主にS1〜S3に由来します。仙骨の後面で枝どうしがつながってループ状の神経叢をつくり、上後腸骨棘の下をほぼ水平に外側へ走って、殿部の後内側の皮膚に分布します。

総説によると、中殿皮神経はGray’s Anatomyの最新版でも独立した神経として扱われていません。ある献体研究では、中殿皮神経をつくる仙骨神経の組み合わせが、S1〜S2(48%)からS2〜S4(20%)まで大きくばらついていました。記載が少なく、個人差も大きい神経だと言えます。

下殿皮神経:前枝由来で大殿筋の下縁を回る

下殿皮神経だけは出どころが違います。上・中が後枝由来なのに対し、下殿皮神経は前枝からできた仙骨神経叢の枝である後大腿皮神経から分かれます。総説によると、3〜8本の枝が大殿筋の下縁を下から回り込むように上行し、殿部の下外側の皮膚に分布します。

後大腿皮神経には会陰部へ向かう枝もあるため、下殿皮神経の障害は殿部下部の痛みだけでなく、会陰部へ広がる不快感として現れることがあります。総説は、腰や脊椎を対象にした治療で良くならない殿部下部の痛みや会陰部痛では、下殿皮神経も鑑別に入れるべきだとしています。

3種類を並べると、覚えるべきポイントが見えてきます。上殿皮神経は「腸骨稜を越える神経」、中殿皮神経は「上後腸骨棘の下を横に走る神経」、下殿皮神経は「大殿筋の下縁を回る神経」です。それぞれが越える骨や靭帯、筋の縁が、絞扼の起こりうる場所になります。解剖を「線」で覚えるのではなく、「どこを通り抜けるか」という点で覚えると、触診にそのまま活かせます。

4つの研究の概要

ここからは、上殿皮神経と中殿皮神経について、より詳しいデータを示した3本の研究を紹介します。まず4本の全体像を表で確認しましょう。

論文デザイン・対象主な問い主な答え
Haładaj(2026)総説殿皮神経の解剖と臨床的意義は?上・中・下で起始と走行が異なり、骨や筋膜との関係から絞扼を受けやすい
Konno ら(2017a)献体16体・23側トンネルを通る上殿皮神経はどこから来るか?T12〜L5から起こり、トンネルを通る13本はL3〜L5由来
Kuniya ら(2014)前向き研究・患者834名上殿皮神経障害はどのくらいあるか?113名(14%)が該当し、その49%に下肢症状
Konno ら(2017b)献体20体・30側中殿皮神経は長後仙腸靭帯で絞扼されるか?64本中10本が靭帯の下を通り、うち4本に明らかな絞扼

上殿皮神経の研究でわかったこと

結果1:上殿皮神経はT12〜L5から起こっていた

Konno ら(2017a)は、平均88歳の献体16体(23側)で、上殿皮神経の枝を椎間孔の起始部から皮下の終末まで丁寧にたどりました。確認できた枝は81本で、T12からL5までの神経根から起こっていました。教科書的なL1〜L3という範囲よりも、ずっと下位の腰神経まで含まれていたのです。

腸骨稜を越える枝の本数は、3本が15側、4本が4側、5本が4側でした。教科書では内側枝・中間枝・外側枝の3本として描かれることが多いのですが、約3分の1の側では4本以上あったことになります。複数の神経根から合流してできる枝もありました。

結果2:トンネルを通る枝は主にL4・L5由来で、多くが絞扼されていた

81本のうち、骨線維性トンネルを通っていたのは13本でした。その由来はL3が2本、L4が6本、L5が5本で、すべて下位の腰神経でした。13本のうち9本は最も内側の枝でした。さらに、13本中10本には肉眼で明らかな絞扼が見られました。

トンネルを通る枝が腸骨稜を越える位置は、正中から平均66.1mm外側、上後腸骨棘から平均40.8mmでした。神経の太さは0.3〜2.9mmと非常に細いものです。臨床で圧痛点を探すときの目安になる数値です。

なぜ殿部の皮神経で下肢に症状が出るのか

この結果は、上殿皮神経の障害で下肢に痛みやしびれが出る「偽性坐骨神経痛」を説明する手がかりになります。従来の考え方のようにL1〜L3由来だとすると、関連痛は鼠径部や大腿前面に出るはずで、下腿や足部への症状は説明できませんでした。

しかし、トンネルで絞扼される枝がL4・L5由来であれば、L4・L5の領域に関連痛が出ても不思議ではありません。坐骨神経痛と似た分布の症状が出る理由が、解剖学的に説明できるようになったのです。また、最も内側の枝が皮下で中殿皮神経と吻合していた例もありました。こうした神経どうしのつながりも、症状の分布を複雑にしている可能性があります。

結果3:腰痛・下肢症状の患者の14%に上殿皮神経障害が疑われた

Kuniya ら(2014)は、腰痛や下肢症状を主訴に脊椎外来を受診した連続834名を対象に前向き研究を行いました。上殿皮神経障害を疑う基準は2つです。一つは、最も強い圧痛点が正中から約70mm、上後腸骨棘から約45mmの腸骨稜上にあること。もう一つは、その点を押すと主訴の痛みが再現されることです。

最も強い圧痛点が腸骨稜上にあったのは122名で、そのうち押して主訴が再現されたのが113名でした。つまり両方を満たしたのは834名中113名(14%)です。このうち52%は腰痛のみ、47%は腰痛と下肢症状、1%は下肢症状のみで、約半数に下肢症状がありました。該当者は、そうでない人より女性と高齢者が多く、胸腰椎・腰椎の椎体骨折を持つ人の割合も高くなっていました(23%対10%)。

圧痛点への神経ブロック注射では、平均VAS(0〜100mm)が注射前の68.6mmから、15分後に31.6mm、1週後に45.2mmへと有意に下がりました。最大3回の注射で、85%の患者が20mm以上の改善を得ています。

椎体骨折との関係

この研究で注目したいのは、椎体骨折との関係です。834名のうち、胸腰椎・腰椎に圧迫骨折があった96名では、上殿皮神経障害が疑われた人の割合が27%でした。骨折のない738名の12%と比べて、有意に高くなっていました。

著者らは、骨折によって症状のなかった神経の絞扼が表に出てくる可能性を考えています。不安定になった椎間関節が神経の起始部を刺激することや、後弯が強まって神経が引き伸ばされることが、そのきっかけになりうるという解釈です。論文では、L1の骨折で装具療法を受けても痛みが取れなかった70歳の女性が、腸骨稜の圧痛点への1回のブロックで痛みが消えた例も紹介されています。

結果4:症状を悪化・軽減させる動きと姿勢

理学療法士にとって特に役立つのが、症状を悪化させる動作の記録です。113名で多かったのは、歩行(39名)、座位からの立ち上がり(33名)、立位(25名)、前屈(16名)、後屈(11名)でした。

手術が必要になった重症の19名では、さらに特徴的な所見が観察されています。前屈に症状と反対側への回旋や側屈を加えると症状が強くなり、逆に同側の股関節を伸展させると前屈時の痛みが和らぐ例がありました。また、腸骨稜のすぐ上を自分の手で押さえると、歩行や前後屈での症状が軽くなる例も多く見られました。歩行中に殿部を締めるよう指示すると歩けなくなる例も報告されています。

著者らはこれらを、筋膜の下で神経が引き伸ばされたり、ピストンのように前後に動いて擦れたりすることで症状が出るためだと解釈しています。前屈と反対側回旋は神経を引き伸ばし、同側の股関節伸展は神経を緩めると考えられます。腸骨稜の上を押さえる動作は、神経の近位部を固定して擦れを抑えている可能性があります。

興味深いのは手術の所見です。19名の全例で、胸腰筋膜と殿筋膜が腸骨稜に強く付着する部分の下を2本以上の枝が通っていました。しかし、骨の溝の中での強い圧迫は1例も見られませんでした。枝は筋膜の下で周囲と癒着し、血流不足を思わせる白っぽい色をしていました。著者らは、骨による直接の圧迫よりも、筋膜の下での繰り返しの摩擦が重い症状を起こしうると述べています。

手術後は、平均VASが74から35へ、腰痛による日常生活の障害度を示すRDQが15.0から7.4へと改善しました。また、下肢症状のある16名では、症状の期間が3年以内の人のほうが、3年を超える人より良好な結果を得た割合が有意に高くなっていました。症状が長引く前に気づくことの大切さを示す結果です。

中殿皮神経の研究でわかったこと

結果5:中殿皮神経の16%が長後仙腸靭帯の下を通っていた

中殿皮神経と腰痛の関係は、実は古くから指摘されていました。1957年の報告では、殿皮神経を処置した腰痛患者30名のうち5名にS1・S2領域の下肢への関連痛があり、中殿皮神経への処置で良い結果が得られたとされています。ただし、中殿皮神経は細く、手術中に見つけにくい神経でした。

長後仙腸靭帯は、上後腸骨棘の周辺から仙骨の外側縁へ走る、仙腸関節の後方を支える靭帯です。Konno ら(2017b)は、平均88歳の献体30側で、中殿皮神経とこの靭帯の関係を調べました。

見つかった中殿皮神経の枝は64本で、S1〜S4の後枝から構成されていました。そのうち10本(16%)が長後仙腸靭帯の下を通っていました。靭帯の下を通る枝はS2由来が最も多く、太さは平均1.6mmでした。そして10本中4本では、靭帯の下で神経が明らかに細く押しつぶされていました。中殿皮神経の絞扼を解剖学的に示した初めての報告です。

靭帯を貫く位置は、上後腸骨棘から尾側に約2〜3cm、正中から外側に約3.5cmの範囲でした。靭帯の下を通る枝の一部からは、仙腸関節へ入っていく細い線維も確認されています。上殿皮神経との吻合や、上殿神経への交通枝も見られました。

仙腸関節痛との関係

著者らは考察で、仙腸関節痛の患者さんが指1本で示す痛みの場所は、上後腸骨棘の内下方1cm以内に集まるという先行研究を紹介しています。また、長後仙腸靭帯の周囲へのブロック注射が、関節内への注射より効果的だったという報告にも触れています。

今回の結果は、仙腸関節痛とされている痛みの一部に、靭帯の下での中殿皮神経の絞扼が関わっている可能性を示しています。著者らは、長後仙腸靭帯は靭帯自体への力学的ストレスだけでなく、その下を通る神経の圧迫によっても痛みを生みうると述べています。

臨床でどう活かすか

評価の視点1:まず問診で痛みの性質と場所を聞く

Haładaj(2026)は、痛みの性質、部位、時間的なパターンを丁寧に聞き取ることが評価の要であり、その後の方針を決める手がかりになると述べています。殿皮神経の障害は皮神経の問題なので、神経障害性疼痛に近い、ピリピリ、ジンジンといった表現が出てくることがあります。「どこが痛いですか」と聞くだけでなく、「指1本で一番痛いところを示してください」と頼むと、腸骨稜上や上後腸骨棘の下といった特徴的な場所が見えてくることがあります。

評価の視点2:圧痛点と症状の再現を確かめる

今回の研究から、触診の目安を次のように整理できます。

  • 上殿皮神経:腸骨稜の上で、正中から約6〜7cm外側、上後腸骨棘から約4〜4.5cmの位置
  • 中殿皮神経:上後腸骨棘から約2〜3cm尾側、正中から約3.5cm外側の長後仙腸靭帯の周辺
  • 下殿皮神経:大殿筋の下縁で、殿溝の周辺

大切なのは、押して痛いかどうかだけでなく、「いつもの痛み」が再現されるかを確かめることです。Kuniya ら(2014)の基準も、圧痛点の位置と主訴の再現の両方を求めていました。総説で紹介されている診断の考え方でも、限局した痛み、再現性のある圧痛、局所麻酔による症状の軽減の3つがそろうことが目安とされています。ただし数値は献体や一施設の患者の平均値で、個人差が大きいことを忘れないでください。

評価の視点3:腰椎由来の症状との見分け方

Kuniya ら(2014)は、手術を受けた19名のうち11名に腰椎手術の既往があり、うち8名は手術で症状がまったく改善していなかったと報告しています。殿皮神経の障害が腰椎疾患と誤認されうることを示す重い事実です。

著者らは見分けるヒントとして、次の点を挙げています。神経根由来の本当の坐骨神経痛では、殿部の圧痛点を押しても下肢症状は再現されにくいこと。上殿皮神経障害では、腸骨稜の圧痛点を押すと、離れた場所の下肢症状まで再現されることがあること。そして、前屈に反対側回旋を加えると悪化し、同側の股関節伸展で軽減するといった特徴的な反応です。こうした所見を、神経学的検査や画像所見と組み合わせて考えることが大切です。

評価の視点4:仙腸関節痛と中殿皮神経を並べて考える

上後腸骨棘のすぐ下を指さす患者さんに出会うと、仙腸関節由来の痛みを真っ先に考えることが多いと思います。今回の研究を踏まえると、同じ場所には長後仙腸靭帯と、その下を通る中殿皮神経も存在します。関節そのもの、靭帯、神経のどれが主な痛みの源なのかは、触診だけでは区別できません。

それでも、「この場所には神経も通っている」と知っているだけで、評価の見方は変わります。圧痛がピンポイントか、押すと殿部や下肢へ広がる感覚があるか、ピリピリとした表現があるかといった点に注意を向けると、記録する情報の質が上がります。

評価の視点5:圧迫骨折後の腰痛を見直す

高齢の圧迫骨折後の患者さんで、骨折部の安定が得られても腰殿部の痛みが続くことがあります。「骨折の痛みが残っている」と片づける前に、腸骨稜上の圧痛点を確認してみる価値はあるでしょう。Kuniya ら(2014)の結果は、骨折のある患者さんで上殿皮神経障害が疑われる割合が高いことを示していました。

治療の視点:筋膜の下での「擦れ」を減らす

今回の研究には、理学療法の効果を検証したものは含まれていません。そのため、特定の治療法が有効だとは言えません。ただ、Kuniya らの手術所見が示すように、症状の背景に筋膜の下での神経の癒着や摩擦があるとすれば、周囲組織との滑走性や、神経を引き伸ばす姿勢・動作の反復に目を向ける意味はあると考えます。

たとえば、前屈と反対側回旋で症状が出る患者さんであれば、日常生活でその組み合わせを繰り返していないかを確認できます。症状が強い時期の動作指導や、痛みを悪化させる動作の回避は、根拠と矛盾しない範囲でできることです。患者さんへの説明では、「腰の骨の近くを通る細い皮膚の神経が、筋膜の下で擦れて痛みを出していることがあります」と伝えると、痛みの場所と動作の関係を理解してもらいやすくなります。ただし、今回の研究はその説明を裏づける解剖と臨床の知見であり、断定は避けるようにしましょう。一方、神経ブロックや手術の適応判断は医師の領域です。圧痛点と症状の再現を確認したら、その所見を医師と共有することが大切です。

臨床メモ(筆者の経験から)

皮神経の走行はデルマトームと一致しない臨床症状などにおいて頭に入れておきたい内容だなと思っています。

この研究の限界と読み方の注意

まず、2本の献体研究の対象は平均88歳と高齢で、固定された献体です。生きている人の、しかも若い世代の神経が同じ走行をとり、同じ頻度で絞扼されているとは限りません。対象数も16体と20体で、多くはありません。

次に、絞扼の頻度は研究によって大きく異なります。Konno ら(2017a)はトンネル内の絞扼を30%(23側中7側)に認めましたが、先行研究では5%(37例中2例)や、109側中2側という報告もあります。著者ら自身も、中等度の締めつけまで含めたことが違いの一因だと述べています。「どのくらいの人に絞扼があるか」は、定義の決め方で大きく変わるということです。

Kuniya ら(2014)は一施設の脊椎外来の患者を対象としており、診断は圧痛と症状の再現という臨床所見にもとづいています。偽薬を使った比較がないため、神経ブロックで痛みが下がったことが、上殿皮神経が原因だったことの証明にはなりません。この診断方法の妥当性には、外部から批判もあります。

Haładaj(2026)は、既存の文献をまとめた総説です。問診の重要性についての記述は、著者自身の臨床経験にもとづく意見として書かれています。系統的に文献を集めて評価したレビューではないため、書かれている内容の強さには差があることを意識して読む必要があります。

中殿皮神経の論文では、要旨と本文で一部の距離の数値にずれがあります。この記事では幅を持たせた表現にしています。下殿皮神経については、今回は総説の記述のみで、詳しいデータを示した研究は扱っていません。

よくある質問

Q. 上殿皮神経と上殿神経の違いは何ですか?

名前は似ていますが、別の神経です。上殿皮神経は腰神経の後枝から起こる感覚神経で、殿部上部の皮膚を支配します。上殿神経は仙骨神経叢(前枝)から起こる運動神経で、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配します。

Q. 上殿皮神経障害の圧痛点はどこを探せばよいですか?

腸骨稜の上で、正中から約6〜7cm外側、上後腸骨棘から約4cm前後の位置が目安です。押したときに、患者さんのいつもの痛みが再現されるかを確かめてください。位置には個人差があるので、腸骨稜に沿って少しずつずらしながら探すのが現実的です。

Q. 殿皮神経の障害で、足まで痛みやしびれが出ることはありますか?

報告されています。上殿皮神経障害が疑われた患者さんの約半数に下肢症状があり、下腿や足部まで症状が及ぶ例もありました。トンネルを通る枝が下位腰神経由来であることが、その理由の一つと考えられています。

まとめ

殿皮神経は、上・中・下で起始も走行も異なる皮神経の集まりです。上殿皮神経は腸骨稜を越える部位の骨線維性トンネルで、中殿皮神経は上後腸骨棘の下の長後仙腸靭帯で、それぞれ絞扼されることがあります。上殿皮神経のうちトンネルを通る枝は主にL4・L5由来で、坐骨神経痛に似た下肢症状を起こしうることが解剖学的に説明されています。

明日の臨床では、原因がはっきりしない腰殿部痛の患者さんに出会ったら、腸骨稜の上と上後腸骨棘の下を丁寧に触診してみてください。いつもの痛みが再現される点が見つかれば、評価の視野が一段広がるはずです。その所見を医師と共有することも忘れないようにしましょう。

参考文献

  1. Haładaj R. Cluneal nerves: a concise encyclopedic review with relevance in physiotherapy. Transl Res Anat. 2026;43:100473. https://doi.org/10.1016/j.tria.2026.100473
  2. Konno T, Aota Y, Kuniya H, et al. Anatomical etiology of “pseudo-sciatica” from superior cluneal nerve entrapment: a laboratory investigation. J Pain Res. 2017;10:2539-2545. https://doi.org/10.2147/JPR.S142115
  3. Kuniya H, Aota Y, Kawai T, et al. Prospective study of superior cluneal nerve disorder as a potential cause of low back pain and leg symptoms. J Orthop Surg Res. 2014;9:139. https://doi.org/10.1186/s13018-014-0139-7
  4. Konno T, Aota Y, Saito T, et al. Anatomical study of middle cluneal nerve entrapment. J Pain Res. 2017;10:1431-1435. https://doi.org/10.2147/JPR.S135382
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ABOUT ME
TAKA
TAKA
理学療法士|整形外科領域11年
理学療法士として整形外科領域で11年、臨床に携わっています。関節の可動域制限や痛み、術後のリハビリテーションを中心に、解剖学・運動学・生理学の知識を臨床で使える形に整理して発信しています。臨床実習生や若手セラピストが、根拠をもって評価と治療を考えられるようになることを目指しています。
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