フランクリン流「習慣改革術」:生活を変えるなら一気に変えよ——ベジタリアン実践から学ぶ意志の力
「生活習慣を変えるには、少しずつより“一気に”変えたほうがいい。」
――これはベンジャミン・フランクリンが『自伝』の中で明言している言葉です。
健康法や習慣術の本ではよく「無理せず徐々に」と言われますが、
フランクリンはそれに真っ向から反対しました。
彼にとって、習慣を変えるとは“理性で自分をリセットする行為”だったのです。
■ 頑固な上司キーマーとの「菜食チャレンジ」
フィラデルフィアの印刷所に勤めていた17歳の頃。
フランクリンの上司キーマーは、理屈っぽく頑固な人物でした。
何かにつけて自分の主義を押しつけてくるキーマーに、
フランクリンはある種の“知的いたずら”を仕掛けます。
「大食漢だったキーマーに、少しひもじい思いをさせてやろうと思って、
いっしょに菜食主義をしようと提案した。」
結果、二人のベジタリアン生活は3か月続き、
キーマーが根負けして降参したといいます。
このエピソードはユーモラスですが、
フランクリンにとっては“自分を律する力を試す実験”でもありました。
「ベジタリアンだと生活費が安上がりだった。
若い自分にはありがたかった。」
節制によって生まれた時間とお金を、
彼はすべて学びと自己改善に投資したのです。
■ 「四旬節」を生活改善のチャンスに
その後フランクリンは、宗教行事である「四旬節(レント)」を
自分なりの“生活リセット期間”として活用するようになります。
「わたしはそれ以来、数年間にわたって四旬節を厳格に守った。」
「四旬節が始まると突然、普通の食事から菜食に切り替え、
復活祭までの40日間は菜食生活をつづけた。」
宗教的義務というより、
「期間を決めて自分を立て直す」ための習慣だったのです。
このようにフランクリンは、意識的に“切り替えのスイッチ”を設け、
食生活や行動を一気に変えることを繰り返しました。
■ 「徐々に」ではなく「一気に」変える理由
フランクリンは明確に言い切ります。
「生活習慣を変えるためには、
じょじょにやっていくというアドバイスは、ほとんど意味がない。」
彼の考えでは、徐々に変えるやり方は
“古い習慣を温存したまま”になってしまい、
意志が揺らぎやすくなるという欠点がありました。
逆に、一気に変えてしまえば「後戻りできない」状態が生まれる。
これが、フランクリン流の**“決意の物理的デザイン”**です。
行動心理学の観点から見ても、
「環境を劇的に変える」「ルールを一気に導入する」方が
習慣形成に成功しやすいという研究結果が出ています。
つまりフランクリンの直感は、現代科学でも正しかったのです。
■ 習慣を変えるには“儀式化”せよ
フランクリンは四旬節のように、
「切り替えのタイミングを明確にする」ことを重視しました。
この“儀式化”によって、心のスイッチが入ります。
現代風に言い換えると、以下のような習慣設計が有効です。
- 開始日を決める(例:月初・誕生日・節目のイベント)
- ルールを明文化する(例:この40日は甘いもの禁止)
- 環境を変える(例:冷蔵庫の中身をリセット)
彼にとって「理性」とは、
意思の力ではなく仕組みづくりの知恵でもあったのです。
■ ベジタリアン実践が教える「環境依存の法則」
フランクリンが一気に習慣を変えるのが得意だった理由の一つは、
環境をコントロールしていたからです。
菜食を始めるときも、彼は兄にこう提案します。
「食費の半分を現金で支給してくれれば、自分で料理をする。」
つまり、「肉を出される環境」から自分を切り離したのです。
環境を変えることで、意志力に頼らずに節制を実行した。
これは現代の“行動デザイン理論(Nudge)”にも通じます。
フランクリンは300年前にして、
**「人間は環境に影響される生き物」**であることを理解していました。
■ 「理想は完璧でなくてもいい」——でも始めるなら一気に
フランクリンは完璧主義者ではありませんでした。
菜食主義も途中でやめたり、また戻ったりを繰り返しています。
「65歳の今でも、ときどきベジタリアンに戻ることがある。」
彼にとって大切なのは、完璧に続けることではなく、
必要なときに即行動できる柔軟さでした。
つまり、
- 継続はゆるやかでもいい
- ただし、始めるときは一気に変えよ
というのが、フランクリン流の“習慣革命”なのです。
■ まとめ:変わりたいなら「理性でスイッチを押す」
フランクリンの言葉は、現代の自己啓発や行動科学にも通じます。
「生活習慣を変えるためには、
徐々にではなく、一気にやるほうがいい。」
彼が言いたかったのは、
人間は惰性の中では変われないということ。
だからこそ、理性によって「変化の瞬間」をつくり出す必要があるのです。
食生活でも、勉強でも、仕事でも同じ。
“始める勇気”が、習慣の半分を決めます。
ゆっくりではなく、思い切って始めること。
それが、人生を変える最初の行動だ。
今日から始める小さな習慣改革――
フランクリンなら、きっとこう背中を押してくれるでしょう。
