エクステンションラグとは
膝関節における**エクステンションラグ(extension lag)**とは、自動伸展可動域が他動伸展可動域に至らない現象を指します。すなわち、他動的には伸展可能であるにもかかわらず、自動運動で最終伸展が得られない状態です。
この現象は以下のような臨床的問題へつながります。
- 歩容悪化(屈曲位歩行・伸展位歩行)
- 膝関節不安定性の増大
- 易疲労感、活動性低下
- 階段昇降動作の困難
- 変形性膝関節症の進行
原因
エクステンションラグは「筋が最大短縮位まで収縮できない」ことに由来します。原因は一次的要因と二次的要因に分けられます。
- 一次的要因:反射抑制、浮腫や腫脹、伸展機構損傷、疼痛
- 二次的要因:筋力低下、癒着や瘢痕
一次的要因による筋収縮不全が長期化すると、筋力低下や癒着といった二次的要因が加わり、改善が難渋します。
評価のポイント
筋力低下が要因の場合
- 他動的に膝蓋骨が近位に十分移動できることを確認
- 大腿四頭筋収縮時の膝蓋骨近位移動距離を評価
癒着や瘢痕が要因の場合
- 他動的に膝蓋骨の近位移動が制限されている
- 大腿四頭筋収縮張力は膝蓋骨近位に伝わるが、遠位部に張力が伝わらない
これにより、筋力低下由来か、癒着・瘢痕由来かを鑑別できます。
治療アプローチ
1. 筋力低下が要因の場合
- 初期段階:大腿直筋(股関節屈曲作用)を利用し、膝蓋骨近位移動を確認しながらクワドセッティングへ導く。
- 進行段階:最終伸展位保持が可能になったら、大腿直筋の関与を抑え、広筋群主体で膝伸展位保持を行う。
- 補助的介入:大腿直筋の筋腱移行部に徒手的圧迫・近位伸長を加え、Ⅰb抑制を誘発し、広筋群の収縮を高める。
2. 癒着や瘢痕が要因の場合
臨床では「膝関節屈曲位で筋力が保たれるが、伸展位でエクステンションラグが残存する」ケースが多いです。この場合:
- 膝蓋骨周囲の癒着・瘢痕が膝蓋骨近位移動を制限
- 関与する組織:膝蓋支帯、膝蓋上嚢と膝蓋骨間の癒着、膝蓋上脂肪体・大腿前脂肪体・膝蓋下脂肪体の癒着
これらの組織の可動性を改善することで、エクステンションラグの改善が期待できます。
まとめ
- エクステンションラグは膝関節の自動伸展可動域制限であり、歩容や生活動作に大きな影響を及ぼす。
- 一次的要因(疼痛・腫脹など)と二次的要因(筋力低下・癒着)を鑑別することが重要。
- 筋力低下が要因なら大腿四頭筋収縮訓練、癒着が要因なら膝蓋骨周囲組織の可動性改善が有効。
臨床では、評価を通じて病態を適切に見極め、個別化したアプローチを行うことが求められます。